浮体式洋上風力発電事業においては、タービンや浮体の設計だけでなく、いかに効率的にかつ安全に設置するかについても本事業特有の様々な検討事項が発生します。今回は、設置や曳航を担当される寄神建設株式会社の山口さんにお話を伺ってまいりました。

寄神建設 山口さん

最初に寄神建設さんのOPTIFLOWでのご担当を教えてください。

港湾の建設業者で、起重機船や台船、作業船を保有しており、物を吊り上げたり、輸送を行ったりしています。今までに横浜ベイブリッジやアクアラインの建設にも関わってきました。OPTIFLOWとは、FS(机上検討)の頃から関わりがあり、浮体の曳航と設置を行うことになっています。

 

過去の浮体の曳航のイメージ(NEDO HP)

 

浮体を運ぶプロセスと方法について教えてください。

三井造船特機エンジニアリング(岡山県玉野市)で浮体を製造後、起重機船で浮体を進水させ、北九州まで曳航をする予定です。曳航の際、タワーや風車を取り付けた状態だと橋と接触してしまうため、取り付けずに曳航を行います。浮体自体は、3千トン~4千トンの重さがあるので、タグボートで引っ張っていきます。24時間ずっと動かしていく状況になります。このため、漁師さんや海上保安庁とも調整を行う必要があるんです。

 

タグボートの燃料はどれぐらい持つのですか?途中で補給が必要な物資などはありますか?

1週間ぐらいは持つので、燃料や食料は問題ないです。基本的には国内であれば、補給なしで平気だと考えています。

 

実際に乗船されるのは何名ぐらいになるのですか?

7、8名の予定です。それで、24時間曳航を行います。

 

曳航する際、ぶつからないようにどのような対策を行っているのですか?

最初に、海図などで航路を確認し、実際の曳航時には、後ろに舵取り用のボートをつけて対策を行ないます。それ以外にも、航路を実際にボートで走って確認することもあります。

 

寄神さんは設置の際に組み立ての作業も行いますか?

洋上風力のタワーのような大きなものを吊り上げて上に載せるといった技術を持つ企業は国内でも数が少なく、これまでに弊社でも洋上風力のタワーを扱った経験はありませんが、これまでの経験を活かし弊社が実施します。その中でも弊社は「吊り上げる」という作業に特化した形で行います。タワーを吊り上げて起こした後に下部でボルト止めをする作業などは弊社では行いません。

 

浮体に風車を取り付けてから設置場所に運搬するのですか?

そうですね、海上でタワーやRNAを設置した後に羽をつける作業はとても難しいからです。さらに今回は浮体式であるため、より困難になります。ちなみに、今回の風車は2枚羽なので通常より簡単に作業することができます。

 

設置の際に浮体が海上で揺れてしまっていると思うのですが、そのような状況に対応できるコツなどはありますか?

弊社はそのような状況に慣れている業者であるため、ある程度のノウハウがあります。また、ガイドと呼ばれる機械を設置することで揺れを抑えることができます。

 

浮体式と着床式で使用する船の種類に差異などはありますか?

着床式は水深50mまでの範囲で作業するので、揺れがないように作業するために脚が立てられるSEP(Self Elevating Platform)船で基礎を設置して、風車建設の作業を進めていきます。しかし、近年では風車が大型化している傾向にあり、対応できる日本のSEP船の数が少なくなってきています。また国内では50m以浅の場所があまりないので、50m以深の場所に設置される浮体式が増えてくると考えられます。その場合、風車部組立は起重機船での施工となりますが、風・波・潮流等からの動揺が大きい場所での施工は非常に困難です。風車が大型化の傾向にあるので、国内のSEP船及び起重機船が対応出来なくなる可能性が大きくなってきています。

 

SEP船(NEDO HP)

 

洋上風力の係留について教えてください。

係留系(チェーン)に関しては、海外では日本に比べて少し大きいものが作られています。これを日本でも使うことができれば係留系の本数を減らすことができると考えていますが、現状は国内の規格で考えています。しかし、海外の事例を参考にして国内の技術と合わせてより良いものを見つけていかなければならないと感じています。

洋上風力の係留系はどのようにメンテナンスを行っていますか?浮体式ならではの難しさがあれば教えてください。

設計をするときには時間経過に伴う摩耗を考慮して作っていますが、状態の監視は必要です。継続的にチェーンにかかる張力を計測しています。また、定期的に直接見てメンテナンスを行います。通常の係留系は潜水士が直接行うことができますが、今回の洋上風力は深さが50メートルほどあるので潜水士が直接行うとなると危険が伴います。そのため、基本的にはROV(無人潜水機)を用いてメンテナンスを行います。ちなみに、チェーンには貝がつくことがありますが、深い所は酸素が少なく貝がつきません。


今回のプロジェクトとの関わりや苦労を聞かせていただきました。改めてたくさんの企業が関わっていることを知り、プロジェクトの大きさを実感しました。

 

インタビュー担当:わたる そーま しんのすけ 竹内先生

【インタビュー実施日 2022年8月1日】