株式会社グローカルの伊藤さんにインタビューしました。伊藤さんは、大学で電気工学を学び、就職してからは、電力制御やコントロールシステムのビジネス開発に携わっていたそうです。幅広い興味でキャリアを積まれた伊藤さんに、OPTIFLOWの概要についてお伺いしてきました。
株式会社グローカルの伊藤さん
株式会社グローカルの伊藤さんにインタビューしました。伊藤さんは、大学で電気工学を学び、就職してからは、電力制御やコントロールシステムのビジネス開発に携わっていたそうです。幅広い興味でキャリアを積まれた伊藤さんに、OPTIFLOWの概要についてお伺いしてきました。
株式会社グローカルの伊藤さん
はじめに、OPTIFLOWが始まった背景について教えてください。
2050年までに脱炭素を実現する上で、洋上風力発電事業には大きな期待がかけられています。日本の海域は遠浅のエリアが狭くすぐに水深が深くなるため、海に浮かぶタイプの浮体式洋上風力発電の技術開発が必要とされています。
しかし、これまでに作られた浮体構造は、設置に適した海域に制限があったり、コストが高いなどの課題がありました。今回のOPTIFLOWは、浮体式洋上風力発電を低コスト化するためにはじまりました。
OPTIFLOWのデザイン
OPTIFLOWのポイントは何でしょうか?
1つ目の特徴は、タレット(何かを回すときに使用する技術)を使用した一点係留システムの適用です。これによって、風見鶏の様に風向に合わせてタレットを中心に自然に旋回し、風下方向を向いて発電します。
2つ目の特徴は、タレットによるパッシブヨー制御を用いていることです。モータや歯車といった機械で風車を風向に合わせるよう制御するよりも、タレットによる一点係留により、自然に風車が風下に向くため、故障が少なくなります。このため、O&Mコスト(運用および保守点検)の削減につながるというメリットがあります。
3つ目の特徴は、大規模な風車にも耐える軽量化した浮体です。今回の実証機の大きさは180m×100m弱の大きさで、新国立競技場におさまらないぐらいの巨大な構造物です。例えば、タワーの部分を大幅に軽量化しています。通常のタワーの直径は5-6mですが、今回の実証機は3-4mとなっており、その代わり3方向に2本ずつガイワイヤーを用いて固定しています。先ほども説明したように、軽量化することでコスト削減につなげています。
OPTIFLOWの構造
なぜ2枚翼を用いているのでしょうか?
2枚翼の方が組み立てが簡単です。3枚翼の場合、洋上にタワー、タービンを設置してからブレードを取り付けますが、2枚翼の場合はタービンにブレードを設置してから、タワーに設置することが可能です。設置コストが安くなる、というのが最大のメリットになります。
また、台風の時のリスクが低減できることもメリットとして挙げられます。通常、一定の風速になると安全のために風力発電を停止します。その際、2枚翼であれば横で静止させることで、表からくる風、横からくる風を逃すことが可能です。3枚翼の場合は、表からの風を逃すことができますが、横からの風を逃すことができず、事故につながるリスクが高くなります。効率については、2枚翼も3枚翼も変わりませんが、2枚翼の方が風切り音が大きいというデメリットがあります。
3枚翼と2枚翼の特徴
他の構造物との距離をどれくらい離さなければならないのでしょうか?
風車は暴風時等でも倒れないように設計しますが、万が一風車が倒れても航行船舶などに被害が生じない距離を取ることが求められます。また、一般的にブレードの直径×7~10倍の間隔を取れば、風車風下側の風速低下の影響を避けることができるとされております。今回はブレードが140mなので、その10倍の1,400m離しました。
なお、第1基目実証機(図の既設風車、バージ型3MW風車)の西側海域に設置しますが、設置場所を検討するために航行安全委員会を開催しました。航行安全委員会では、あまり離しすぎると船が2基の風車の間を通ることが増え、事故のリスクが増す可能性があるということも指摘されました。専門家と事前に調整をしながら設置する場所が決められていくのです。また、既存のケーブルを跨がず、船がアンカーを打たないようにケーブルルートを決めていく必要があります。
新設と既設風車の設置箇所
第1基目の浮体式構造からの学びはありますか?
浮体構造はチェーンで繋がれて、海底にアンカーで固定されます。また、電力ケーブルで陸上の開閉所と繋ぎます。これらチェーンや電力ケーブルにはフジツボ等の海中生物が付着して重くなったりします。ケーブルが重くなり沈みすぎた場合や、チェーンの健全性目視点検を行う時など、排貝の作業をする必要が出てくる可能性があります。チェーンが錆びた場合も考慮した強度の確認も必要です。
アンカーは海底の砂礫や泥をつかんで止めるタイプのものですが、海底堆積層の調査を行ってアンカーが外れないような場所の検討も進めています。これらは、第1基目の事例も参考にしながら、専門家が関わって十分な検討、シミュレーションを行っています。
堆積層、アンカーの位置
伊藤さんへのインタビューを通して、様々な工夫が詰まった実証機ということが分かりました。浮体式洋上風力発電は沖合に設置されることで、陸からの景観に大きな影響が出ないというメリットがあります。
海外でのご経験が豊富で、興味のあることに積極的にチャレンジする伊藤さん。50歳を過ぎてから学位を取られたそうです。 今回初めて、洋上風力発電に関わられたとのことですが、実はご趣味のヨットの知識が役立っているとのこと。人生、自分の経験がどこでどう活きるかわかりませんね。
インタビュー担当:竹内彩乃
【インタビュー実施日 2021年8月12日】