今回は、豊田通商株式会社の若林さん、海洋エンジニアリング株式会社の杉岡さんに、本プロジェクトの環境影響評価について伺いました。

気候変動対策や資源の持続可能な利用のために、再生可能エネルギーの積極的な導入が不可欠とされる現在、洋上風力発電には大きな期待が寄せられています。その一方で、健康や生態系への影響という観点から風車の設置を不安視する声もあります。「地域の人々や生態系への影響はどのように調査されているのだろう?」「洋上風車の設置が新たな問題を生み出すことになってしまわないだろうか?」など、私たちの率直な疑問をぶつけてみました。

豊田通商株式会社の若林さん&海洋エンジニアリング株式会社の杉岡さん

なぜ商社である豊田通商さんが今回の環境影響評価を担っているのでしょうか?

 

(若林さん)我が社のグループ会社である「株式会社ユーラスエナジーホールディングス」は、再生可能エネルギーの開発を行なっており、30年以上世界各国で再生可能エネルギーの発電事業に従事してきました。とりわけ、スタートアップ事業であった風力発電に関して、開発、建設、保守、運営という風力発電の1から10を一貫して行っており、豊富な知見を持っています。我が社は、東京電力ホールディングスと共同でユーラスエナジーに出資しているため、その豊富な専門的知見を今回のプロジェクトに活用しています。こうして、独自の知見に加え、グループ会社の持つ専門的知見も取り入れながら、様々なアプローチで環境影響評価を担っています。

海洋エンジニアリングは、海洋環境の総合コンサルタントで、民間企業では国内で唯一自社で調査船を保有しているなど、まさしく海洋調査のエキスパートと言えます。そういったことから、本プロジェクトの環境影響評価の一部を海洋エンジニアリングに依頼しており、2社が協力しています。

 

環境影響評価とはどのように行われるのでしょうか?

(杉岡さん)「環境影響評価」と一口に言っても、その中にいくつもの工程が存在します。具体的には、配慮書手続→方法書手続→事前調査(現況調査)→準備書手続→評価書手続→建設中調査→運転時モニタリング調査→報告書→撤去後調査といった流れになります。

 

本プロジェクトにおいて、漁業者をはじめとした地域住民はどこまで関わっているのでしょうか?

(杉岡さん)現況調査の前に、関係機関との事前協議があるのですが、そこには北九州市などの行政や、水産、環境の専門家だけでなく、地域の漁業者も加わり、事業の説明と確認を行っています。また、市が事業についての情報を一般に公開していたり、事業説明会を開催し、誰でも参加して意見を言える環境を作っています。そのため、事業が始まってからも大きな反対なく計画を進められています。

調査自体も、海上保安庁、漁協、実証海域の石油備蓄会社などのステークホルダーに事前同意を得たうえで行われています。その後の対応についても、漁業者に対して定期的に事業の進捗状況や変更点があれば報告をしていくなど、継続的な情報提供、関係構築を行っていきます。

 

今回の事業に関わられている中での想いについても伺いました。

(若林さん)欧米に比べ開発・導入が遅れている日本が、脱炭素社会の実現のために目標を掲げ、実用化に向けて取り組んでいるという事業であるため、非常にやりがいを感じています。また次の事業に繋げることができるような結果を得られるようにしたいと思っています。最終的には日本で開発した技術を海外に展開できたらという夢があります。

 

音が生き物に与える影響について質問しました。

(杉岡さん)洋上風力発電を設置する地域には海棲哺乳類や海鳥、魚がたくさんいますが、今回の浮体式洋上風力発電では、着床式と違い、くい打ち工事等はないため、音による問題はほとんどないと思います。ただ、音の海洋生物への影響については、わからない点もあるので調査は行います。

 

今回の NEDO のプロジェクトにおいて、環境影響評価の中の配慮書手続きや方法書手続き、事前調査を行う際に特に大変だったこと、苦労したことは何ですか?

(杉岡さん)苦労ではないですが、住民意見の中には鋭い指摘もあり、耳が痛いこともありますが、できる限りの対応をしています。また、地元関係者に対する事前調査の説明の際には、皆さんの理解を得るために丁寧に対応しました。

 

現段階では洋上風車の設置によってスナメリ(小型のイルカ)などへの影響はそこまでないとの事ですが、将来的にもスナメリなどの希少野生動植物が利用する可能性を害する事はあり得るのかでしょうか?

(杉岡さん)将来的に洋上風車が大規模に開発される場合、鳥類への影響、例えばバードストライク等には十分配慮すべきだと思います。一方、海生動物のスナメリ や魚類については、水中音による影響が考えられますが、着床式風車設置時の杭打ち込みの工事音以外は、それほど影響はないと考えます。ただ、漁業者は魚類への影響を心配 することもあるので、モニタリング調査は必要だと思います。

 

今回のプロジェクトで浮体式洋上風力の環境アセスメントに携わるお二人から見て、浮体式洋上風力の普及に対して、どれほどの現実味を感じますか?まだ検証段階であるため、明確なことは分からないかもしれませんが、個人的な見解で構いませんので、お教えいただければと思います。

(若林さん)日本のエネルギー政策でも打ち出している通り、再エネ分野の拡大はカーボンニュートラルの達成に向けた手段の一つですが、そのうち風力発電については立地や環境面からも陸上での大規模展開には限界があり、洋上風力への移行が不可欠な状況です。洋上風力でも着床式は設置海域が限定的ですが、浮体式はより広い海域での設置が可能であり、比較的遠浅が少ない日本周辺海域に適しています。従い、日本国内での技術開発が現実的かどうかは別として、今後5年~15年の間で日本でも浮体式洋上風力発電は普及して行くものと考えています。


「洋上風力発電の普及はどれほど現実味があるのだろう」と思っていたのですが、このような熱い想いに触れ、欧米と肩を並べられる日はそう遠くないと感じました。5年後10年後には日本の海に風車が並んでいるかも知れないと思うと、とてもワクワクしてきますね。

今回のお話から、事業を行う上で、自治体などの公共機関だけではなく、早い段階から地域の漁業者を含む一般市民にも、時間をかけて、なおかつ継続的に情報提供がなされていることが分かりました。事業者と住民の開かれた意見交流の場も設けられており、こういった事業において、地域住民が置いてけぼりにされているといったイメージは変わりました。事業が上手くいくためには、やっぱり双方向のコミュニケーション、信頼関係の構築が大切なんですね。

 

インタビュー担当:(左上から)しょうへい、みどり、だいち、よっしー、たくま、

ゆいちゃん、こうだい、たいせい、しょうこ

【インタビュー実施日 2021年10月7日】