日本では、カーボンニュートラルの達成に向けて、2040年までに洋上風力発電を4,500万kW導入することが目標とされています。これを実現するためには、10MWの風車を4,500基設置しなければなりません。皆さんは想像できますか?日本は遠浅でないため、着床式の風車は4,500基のうち一部しか設置できません。これを踏まえて日本では、浮体式洋上風力発電の開発が急ピッチで進められています。今回の浮体式洋上風力発電の開発の中心を担う株式会社グローカルの福田さんから、日本の洋上風力発電開発とグローカルの取り組みについてお伺いしてきました。

株式会社グローカルの福田さん

まずは福田さんの経歴について教えてください。

長崎県出身で、1986年に丸紅株式会社に入社しました。海外の大型火力発電のM&Aを多く手掛け、国内電力部長時代に福島沖浮体式洋上風力発電のコンソーシアムリーダーを務めました。他にも、再エネ専門の三峰川電力株式会社社長として、小水力、太陽光、バイオマス等、様々な再エネ事業に携わってきました。さらに、これまでに台湾、ワシントンDC、ジャマイカ、インドネシア等、約12年海外で仕事をしています。2020年より、株式会社グローカルの代表取締役副社長兼COOに就任し、次世代浮体式洋上風力発電開発、その他の風力発電事業等を手掛けています。

 

グローカルさんが手がける浮体式洋上風力発電事業について教えてください。

 グローカルでは、北九州市の響灘において、2件のプロジェクトを進めています。一つ目は、3MWのバージ型浮体式洋上風力発電の実証研究です。こちらは既に設置されており、グローカルがO&Mを担当しています(写真)。二つ目が、今回の6MWのOPTIFLOWの実証研究です。現在、プロトタイプ認証を取得するために作業を進めています。この実証研究では、グローカルが全体エンジニアリング、風車、タレット、係留、系統などの研究開発の中心的役割を担っています。この経験を元に、さらに大きな浮体式洋上風力発電の取り組みも検討しています。浮体式洋上風力発電は、はっきり言って難しい。この難しさに取り組むことにやりがいを感じています。

バージ型浮体風車の港湾におけるタワーと風車の組立完了後(出典:NEDO)

 

浮体式洋上風力発電の難しい点について具体的に教えてください。

難しい点というのは、開発要素があるため、チャレンジの可能性があります。海洋工事、風況調査、プロジェクトファイナンス、オペレーション&メンテナンスなどが挙げられます。海洋工事では、海上でクレーンを使用しますが、そもそも日本には海上クレーン設備が少ないため、傭船料が高額となります。台風やしけで工期が延びると、コストのオーバーランにつながります。ビジネスをする上でとてもリスクが高く、ヨーロッパとの力の差を感じる点でもあります。また、洋上風力発電設備は、陸上と違って海水に晒される環境に設置されるため、きめ細やかなオペレーション&メンテナンスが求められます。ただし、海岸から離れているため、移動時間を考慮すると、メンテナンス作業にかけられる時間が限られています。

 

SEP船(Self Elevating Platform:自己昇降式作業台船)の例(出典:NEDO)

 

風車を設置するにあたっては、他にもしなければならないことが沢山あります。例えば、風車を設置する海域で充分な理解を得る必要があります。そのため漁業者や日本野鳥の会などと話し合いをしたり、海上保安庁との調整を行ったりしています。また、電力の系統枠も確保しなければなりません。このためには、系統枠を管理している電力会社との交渉が必要です。中にはその地域の送電網が整備されていないということさえあり、非常に大変です。

 

洋上風力発電を開発する上で漁業協調が課題とよく聞くのですが、具体的にどのようなことが課題になるのでしょうか?

洋上風力発電設備を設置することにより地引網漁などへの影響が懸念されることがあります。私が福島県で実証事業を始めた頃は、手探り状態で漁業者との交渉を行っておりました。最近では、水産庁と連携することで、漁業者の協力も得られるようになってきました。

 

本日お話を伺う中でプロジェクトの難しさが非常に伝わってきました。大変なことばかりなのではないかと思いますが、それでも頑張れるモチベーションは、何かありますか?

頑張っているというよりも、面白いからやっていると言った方が近いかもしれません。たしかに浮体式の洋上風力発電は難しいのですが、それよりもこの全世界的に重要な事にチャレンジしていることにやりがいを感じています。ロマンのある仕事をしていきたいですね。

 

 

福島の復興のシンボルとなる洋上風力発電のプロジェクトを依頼された時、「やります」と即答したと仰っていましたが、なぜすぐにやろうと思われたのですか?私なら躊躇してしまいそうです。

商社マンとして、誰かがやっていることを受け継いでやるよりも、新しいことに挑戦したいという性分が一つの理由だと思います。ジャマイカのプロジェクトに関してもそうです。ジャマイカに行く必要はなかったけれど、現地に赴任し1700人の従業員を統率しました。このプロジェクトも、世界のまだ誰もやっていないことだったからこそチャレンジ精神をかきたてられ、すぐ引き受けることを決めました。

 

最後に、子供たちへ、未来世代へ伝えたいことはありますか?

温暖化が進み、このままでは大変なことになります。再エネの進んでいるドイツの事例から、二酸化炭素を排出しない発電方法の中でも洋上風力発電は特に有力と考えています。洋上風力発電はかなり難しいですが、ポテンシャルは高いです。洋上風力発電について理解を深めてもらいたいです。


 

とても難しい洋上風力発電事業が今後どのように実現していくのか、これからの発展に期待が高まりました。

インタビュー担当:(左上から)ゆいちゃん、だいち、ぶっちー、たくま、みどり

【インタビュー実施日 2022年3月23日】