浮体式洋上風力発電設備が設置された際に、どのような動きをするのか?台風や強風の際に問題が生じないのか?浮体式洋上風力発電設備の設計を確実なものにするためには、縮小模型を使用して、影響を調べる必要があります。今回はOPTIFLOWの水槽実験に関わった東京大学の鈴木先生から、お話を伺ってまいりました。

東京大学の鈴木先生

先生はなぜ洋上風力発電を研究しようとお考えになったのですか?

私が学生の頃は、石油・天然ガス開発のための浮体構造物の研究をしていました。しかし時代が変わり2000年代になると、地球温暖化が問題視されるようになり、浮体技術を再生可能エネルギーの分野でも活かそうという動きが日本で出てきました。そのような中で、私自身も人類が抱えている大きな問題の解決に貢献したいと思い、また洋上風力であれば思い入れのあった海の分野から貢献できそうだと考え、学生と研究を始めたのが始まりでした。

 

現在鈴木先生が関わっている「水槽実験」とはどのようなものなのか、簡単に教えて下さい。

OPTIFLOWの設計に基づいた縮尺模型を送風機や造波機のある水槽に設置し、風や波を発生させ、模型の揺れ等を計測するというものです。この実験から、実機が洋上でどのような動きをしそうかを把握します。また、事前のシミュレーション結果が動きをきちんと予測するものとなっていたかを確かめる目的もあります。今回は、実機の1/60の大きさの、翼のついていない模型を用いました。

水槽実験のイメージ

翼がないとは驚きです。なぜ翼がなくても正確なデータを得ることができるのですか?

ダクト付きファン(※)を搭載しているからです。翼やタワー、水面から出ている円筒部分等にかかるであろう風の力を全て事前に算出します。そしてファンを使って、その力に相当する模擬の力をファンで発生させます。こうすることで、実機と同じ条件をつくり出しているのです。

※風の力を再現するための空気を送るための筒(ダクト)がついた扇風機状の装置

水槽実験の様子(提供:鈴木先生)

 

翼がないものを用いる理由は何ですか?

実験場所に制限があるためです。実際に翼を付けて動かすとなると、かなり大きな送風機が必要となってしまいます。そのような送風機を全方位に移動させながら実験をするということができないため、このような形で行いました

 

水槽実験は、OPTIFLOWが設置される実海域の環境をつくり出して行うのですか?

はい、そうです。設置される実海域の波や風を再現します。風車はおよそ20年間稼働することになっているので、50年に1度の記録的な台風が来ても壊れず、台風の通過後も稼働し続けることが保障されるように設計されています。そのため過去に発生した記録的な暴風雨の際の海況を再現し、その状況で風車がどのように動くのかを計測するのです。

 

何人でこの実験を行ったのですか?

研究室で実際にプログラムを作ったり発注に関わったりした人は、3人くらいです。実は、設計は私自身でやりました。毎日何時間もエクセルのシートを見ながら計算していて、非常に大変でした!それ以外の、例えばファンをどのように動かせばよいかなどのプログラムを組むのは大学院生に、実験のデータの整理や模型の発注などは技術職員にやってもらいました。実験では、常時見守りが必要で、毎日5人ほどで行っていました。この際には水槽施設の職員の方にも参加していただきました。

 

この実験で工夫された点などがありましたら教えてください。

ケーブルに工夫があります。模型には沢山のセンサーが取り付けられており、それと水槽脇の計測装置とをケーブルで繋ぐことで、模型に発生している歪や力を測るのですが、海外では各センサーにそれぞれケーブルを繋いでいたためにケーブルが模型の動きに干渉し、正しい実験結果を得られなかったという失敗がありました。ですので我々は、光ファイバーのケーブルを使って全部で44か所のセンサーを3本のケーブルで一筆書きですべて繋いでしまうことによって、ケーブルの数を3本にまで抑えました。

 

最後に、鈴木先生とOPTIFLOWの今後の関わりについて教えてください。

まだ分からないところもありますが、設計の過程を見るというのは私の役割ですかね。また、実際出来上がったものが当初想定された性能になっているかの確認をすることです。


長期的な研究を行う際には何か「貢献したい」というような強い軸を持っていることが、成果を出すうえで重要とおっしゃっていた鈴木先生。今回の研究成果を、是非とも日本の浮体式洋上風力発電の今後の発展に生かしていただきたいです!

インタビュー担当:みどり しょうこ

 

【インタビュー実施日 2022年1月17日】