洋上風力発電設備は海洋環境によって大きな影響を受けるため、きめ細やかなメンテナンスが求められます。海洋環境を的確に把握し、問題に的確に対応するためにはしっかりと計測をすることが必要です。今回は国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所 海上技術安全研究所(以下、「海上技術安全研究所」)の中條さんに、計測技術の設計についてお話を伺ってまいりました。

海上技術安全研究所の中條さん

はじめに海上技術安全研究所さんのお仕事について教えてください。

海上技術安全研究所では、OPTIFLOWが稼働した時にデータを計測するための技術設計を行っています。OPTIFLOWは、日本で浮体式洋上風力発電を実現する上で重要なデータを集めることも大きな目的としているため、風や波の影響を受ける風車の挙動を知り、どのような環境に適した構造なのかを調べる必要があります。また、設計した通りの挙動を示しているかについても調べる必要があります。

風や波の状況を調べる計測システムを作る上で、各センサーを選定する際に重視しているポイントは何ですか?

やはりまずは、計測したい場所における耐久性ですね。計測システムは、海上から15m程の高さに設置されますが、海上からそれほどの距離があっても波によって水しぶきがかかり、塩水にさらされます。このように海上、海中、海底という過酷な状況下で、しっかり対応できるかという点を重視しています。
次に、測りたいものを計測できるかという機能性です。例えば風で言うと、メーカーや機種によっては、風速が一定の速度以上だと計測不可といったこともあります。そのため、現場の環境条件を検討した上で、適切に計測できる機能を持ったセンサーを選定するようにしています。
これらのポイントで、様々なメーカーの製品の中から選定しています。ただ、生産が停止していたり、条件に適う製品が見つからないこともあるので、その際は特注することもあります。

 

計測器(提供:国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所 海上技術安全研究所)

海底に設置する波の流向、流高センサーに対する海洋環境からの影響はどのようなものがありますか?

海中に入れると汚れがすぐにつきますが、それはメンテナンスで対応します。海水中では貝や海藻などの海洋生物が付着しますが、定期的にチェックします。ひどい時にはダイバーさんに頼み、海水中からセンサーを取り出し掃除を行います。付近の漁港での付着量の計測データや水温データと、浮体での水温計測データを合わせることで、将来的に海洋生物の付着を予測可能にできるとよいと考えています。しかし、地球温暖化による海水温の上昇により、生態系に変化が見られている地域もありますね。

計測システムは、洋上風力の安全で安定的な運転を守るという意味で「縁の下の力持ち」のような印象を受けました。これまで中條さんが計測システムの開発を通じてOPTIFLOWに関わる中で、どのようなやりがいを持って働かれていますか?

浮体式洋上風力発電システムの技術がもっと広く知られて、普及してほしいと願っています。しかし、安全であることはもちろん、コストを下げないと実際に運用することはできません。計測システムで計測したデータは、次の洋上風力発電設備の設計や実際に浮かべた際の検証にも大きく役立ちます。その中で、浮体式洋上風力発電システムを合理化し、経済性を高め、将来的に各地の海で風車が浮かぶのを見ることが出来ればいいですね。このプロジェクトの一端を担う者、また研究者として自分達の行ったことの成果が目に見える形で現れるのはやりがいですね。

 

計測システムを考える中で、浮体に起こる様々なことを想定しておられると思いますが、「え!?こんなことも考えなくてはならないのか!」と驚いたことはありますか?

計測システムの設計に関し、風車のデータも他のデータ(気象海象データ、浮体運動等のデータ)と合わせて収録するとなっていますが、その風車のデータが大変多いことには驚きました。海技研では、海象気象や浮体については予測できましたが、風車そのものには不案内でしたので、びっくりしました。


浮体式洋上風力発電設備の計測にここまでの検討がなされているとは、とても驚きました。海風に晒されつつ、様々なデータを計測し、将来の技術発展に貢献していただきたいと思います!

インタビュー担当:よっしー だいち ぶっちー ゆいちゃん

 

【インタビュー実施日 2022年3月17日】